「有事」の狙い―識者と考える (5)
不信感生む日本の「侵略隠し」
中塚明さんと歴史研究
最新刊の「これだけは知っておきたい 日本と韓国・朝鮮の歴史」は、日朝の近代史研究に半生を捧げ、近代日本の立ち遅れた朝鮮観を根底から覆す視点を切り開いてきた歴史家からの熱いメッセージでもある。 代表作に「日清戦争の研究」、当時の外務大臣陸奥宗光の外交を追究した「蹇蹇録の世界」など。とりわけ、近年、軍事大国化や有事法制の暗雲に覆われる政治状況の中で、90年代以降の中塚さんの仕事ぶりはめざましい。「近代日本の朝鮮認識」(研文出版)、「近代日本と朝鮮」(三省堂)、「歴史の偽造をただす」「歴史家の仕事」(高文研)、そして刊行されたばかりの「日本と韓国・朝鮮の歴史」…。 中塚さんがなぜ、これほどまでに歴史研究に心血を注ぐのか。それは、「あの戦争の惨禍をくりかえすまいと念じたはずの日本国民を、ふたたび危険な道に追い込もうとする動きが強まっている」という危機感。さらに「解放、そして民族の完全独立を期した朝鮮に、分断の悲劇は今も続き、民族の熱望はなお実現していない」という深い思いがあるからだ。 「日本と韓国・朝鮮の歴史」の「あとがき」で「この程度のことが日本人の常識になっていれば、二〇〇一年に大きな問題になった『歴史教科書』の問題は、もしかすると起こらなかったのではないか、そんなことを思いながら、この本を書いてきました」と記している。 「日本の近代史を考えるとき、客観的に見て、明治以降の朝鮮への侵略の歴史を視野に入れなくて、何が明らかになるでしょうか。政治的、経済的にはいうまでもなく、思想・文化の問題を考えるときにも、日本の朝鮮侵略は避けて通れないのです」。中塚さんが常に強調してやまないのが、ただうわべだけではない、過去の歴史を正確に知ることの大切さである。「相手を理解し、認め合い、協調して平和に生きていこうとするとき、過去のことを何も知らないのでは、その目的を達することはできない。まして侵略したのにそれを賛美したり、実際にやったことを隠したりするのでは、相手を怒らせ、不信感を大きくするだけです」。 中塚さんは昨年5月、全羅北道の全州で開かれた「東学農民革命国際学術大会」に出席し、1894年、東学農民軍が蜂起した遺跡のフィールドワークにも参加した。感銘を受けたのは、そこで見た「無名東学農民軍慰霊塔」である。主塔のまわりに背丈の低い花崗岩の補助塔が立てられ、無名の農民の顔、武器として使われた竹槍や鎌、また大事な茶碗などが刻まれていた。「誰でも近づいて、さわって、あるいは抱きしめたい人は抱きしめることができるようにつくられていた」ことに強い印象を受けた。 「蜂起した一人ひとりの無名の農民たちの無念を思い、その志を継いで、これから生きていこうとする現代韓国の人たちの意思が示されていた。補助塔に刻まれている農民の顔は、日本軍によって徹底的に鎮圧され、少なくない朝鮮農民が、見せしめさらし首にされた、そのイメージで刻まれているように思えた。韓国の人たちが日本の侵略の事実を決して忘れていないことの表れです」 過去を忘れない朝鮮半島の人々、歴史的事実を知らない日本の若者たち。中塚さんは2年前の平壌での北南首脳の出会いと6.15共同宣言をテレビで見て「こみあげる感動をおさえることができなかった」と言う。「外国勢力の侵略に反対してたたかった人たち、たたかいの中で犠牲になった人たちはもとより、心ならずも外国勢力に屈した人たちも含めて南北共同宣言に対する感慨が地底から聞こえてくるように思えた」。 この受難の日々を生きた朝鮮民族への深い思い。近著は、そのことを噛んで含めるように語り、感動的。(朴日粉記者) |