くらしの周辺

夏の思い出


 先日、尊敬する先生を病で亡くした。去年の夏、強制連行実態調査のワークショップを通じて初めて出会い、短いながらも大切なお付き合いをさせていただいた。

 総聯を定年退職後、長年に渡って強制連行・労働の実態調査を続けてきた先生は、栃木県の市町村に残る埋葬許可書や寺院の過去帳などの資料、地元住民の証言から、足尾銅山での死者70数人を含む130人が県内で死亡した事実を突き止め、そのうち出身地が確認できた者の遺族の所在を調べ、遺骨返還や保障の有無の確認などをされてきた。97年以降は北海道・朱鞠内ダム工事で犠牲になった朝鮮人労働者の調査にも携わられ、若い世代の在日、日本、南朝鮮の青年たちを集めて遺骨発掘共同作業をライフワークにしてこられた。

 毎年8月が来ると、新聞をはじめメディアでは、一斉に8月15日を取り上げて、熱病のように語っては消えていく。ここ数年間、やっとおおやけに論議されはじめてきた戦前・戦後補償問題などは、現代日本人の良心に問いかける問題だが、人間の尊厳・民族の尊厳に関わるこれに対して罪の重さをまず実感してほしいものだ。謝りを受けねばならぬ当時の青年は既に80歳を超え、延々と時間を待ってばかりはいられない。こんにちまで犠牲になった家族の遺骨すら受け取っていない遺族にとって「恨」は残されたまま、過去は終わっていないのだ。半世紀前の遺骨が時効を理由に放置されたままでは「反省」という二文字の真意すら疑われる。

 思えば先生の口癖は「真相をはっきりさせて、この仕事は私の世代で終わりにしたい」だった。(李紅培、北海道・朝青員)

日本語版TOPページ