新世紀商工会創造運動(2002.7.1〜2003.3.31)

本音で語り合い情報も共有

商工会主導型の組織 西神戸商工会を訪ねて


 「新世紀商工会創造運動」は、人と組織のありよう、事業方法を模索し、21世紀型のスタイルを確立することを呼びかけた。その1つが「商工人主導型の組織」。企画から始まり対策、推進、総括に至るまで、すべてのことを商工人が主導して商工会職員とともに実行することを指す。今年5月、結成40周年を迎えた兵庫県西神戸商工会は、そうした組織づくりを長年にわたって追求してきた。その思いはすでに1世から2世へと受け継がれている。同商工会を訪ね、その秘けつなどを探ってみた。

40年間の積み重ね

 「商工人主導型の組織をつくるといっても、一晩のうちにできる特効薬などない。相互扶助の精神に基づく同胞密着型の活動、40年間にわたる活動の積み重ねを通じて、ようやくそのスタイルを描くことができた」と姜大善理事長(ケミカル関係、57)は言う。

 商工人主導型の組織を目指すうえで、相互扶助の精神が不可欠だということだ。

西神戸商工会の役員たち。理事会は昼食をはさんで行うことが多いという

 ではそれを築く過程はどうだったのか。

 同商工会には現在、神戸市長田区と兵庫区西部に居住する同胞商工人ら約500人が所属している。その約7割がケミカルシューズ製造業に携わる。それ以外の会員も、ケミカル産業の動向に大きく左右される飲食業、遊技業、建設業などにかかわっている。

 まさに「ケミカル産業中心」といえる地域。同商工会が結成(1962年)に至ったのも、解放前から靴の生産に携わってきた同胞らの要望からだった。当時は会員数137人で出発。そして現在、不景気にもかかわらず1年で10人と、会員は年々、着実に増え続けている。

 とはいっても、会員拡大のための活動を特別に行っているわけではない。

 張国順副会長(ケミカル関係、57)は相互扶助の精神、会員拡大問題についてこう語った。

 「商工会=『税金問題』という地域もあるようだが、われわれはお金を貸すことは無理でも相互扶助の精神を貫いてきた。とくにこの地域はケミカル産業に携わる同胞が多いが、ケミカルといってもメーカーをはじめ加工、材料、内職、ミシンなど内容は多岐にわたり、規模も大小さまざまだ。だが、規模にかかわらず、団体所属の壁を越え、日常的に同じ同胞として悩みを本音で話し合える関係を築いてきた。安い仕入先があればそこを紹介するなど情報も共有している。会員増加の要因はこうした点にあるのでは」

 最近では、阪神・淡路大震災後、無利子の制度融資を受け、西神戸朝鮮会館の裏手に5つの同胞業者からなる協同組合「マックス」を設立。材料の仕入れから販路の確保に至るまで取り組んでいる。

 70年代初のオイルショック、ドルショック時には、第2次商工人代表団として祖国を訪問(73年)した役員が金日成主席に商工人が置かれている厳しい現状について説明。後日、祖国から100万足の靴の発注(13億円)を受けることになった。同胞らは兵庫製靴協同組合を設立して靴を製造、窮地を乗り越えたという。

 また、75年と78年には使節団を組み朝鮮籍所有者としては初めてイタリア、ドイツ、スイスを訪問した。海外に目を向け、ケミカル産業を新たな段階に発展させるきっかけもつくった。

 商工人らは自らの活動を通じて相互扶助の精神を発揮してきたわけだが、その原動力は「地域同胞社会の発展、活性化を願う商工人らの積極的な活動」(金慶源総務部長、39])と、「地道な職員の後押し」(金忠國副理事長=ケミカル業、52)にある。

伝統継承も意識

 では彼らの力の源は何か。

 慎纃_副理事長(電子関係、49)はこう語る。

 「朝鮮学校(西神戸初中、現在は初級)で培った民族の心にあるのでは。とくに西神戸は『4.24 教育闘争(48年)』で最後まで守り抜いた学校。同胞らが一致団結して学校を守ったからこそ、われわれは日本社会の中でも朝鮮人として堂々と生きてくることができた。商売も同じことで、同胞同士助け合ってこそうまくいくのではないか」

 金永勲会長(ケミカル関係、64)は、「相互扶助の精神こそ西神戸の伝統。それを活かすための役員間の信頼関係には、会社のものがある。こうした役員、会員間の関係を築くことで、役員の自覚もいっそう高まっている」と強調する。

集大成の結成祝賀会

 結成40周年に際し5月に催された記念祝賀会。昨年7月の定期総会で世代交代し、2世を中心に選出された11人の新役員自らが企画、運営、実行した。40年の歴史と伝統、功労を称えながら、次世代にそれを受け継いでいってもらいたいとの願いを込めた。まさに商工人主導型の祝賀会となった。

 当日は予定を上回る330余人が参加。1世らが築き上げた伝統をつづったビデオも上映された。

 参加者らが喜ぶ笑顔を見て李文男副会長(古鉄業、57)は、「これまで商工会が歩んできた道が正しかったことを再確認した」と言う。金錫東副理事長(ケミカル関係、36)は、「バイタリティあふれる諸先輩が築いた伝統を後輩らが受け継ぐのも西神戸の伝統の1つ。若い世代の課題は大きい」と話す。

 阪神・淡路大震災による財産の喪失、さらにはバブルのツケである朝銀の破たん、外国製品との競争、消費不振など厳しい状況下にあるが、ここ西神戸の商工人らは七転八起の精神でこの難関を乗り越えようとしている。西神戸ではそうした過程を通じて、引き続き新たなスタイルを模索し、実行に移していくという。(羅基哲記者)

日本語版TOPページ