人権無視の日本に一矢報いる
8月6日、一身に背負い証言台へ
京都同胞障害者 年金訴訟原告団団長 金洙榮さん
京都に住む在日朝鮮人同胞聴覚障害者7人が日本政府や京都府に対して障害年金の受給を求める訴訟を京都地裁に起こし、2年5カ月がたつ。8月6日から証人尋問が始まり裁判はいよいよ山場を迎える。証言席に立つのは原告団団長の金洙榮さん(50)だ。
「同じ日本の障害者には年金が支給され、外国人障害者には支給されない。なぜこのような不利益を被り、生活苦を強いられなければいけないのだろうか。人権が守られない日本社会に一矢を報いたい」 4年前までなぜ年金をもらえないのかがわからなかった。 「年金制度の国籍条項を完全撤廃させる全国連絡会」の集まりに参加、同じ同胞障害者の仲間の話から生活苦の元凶を知った。勉強を重ね、厚生省(当時)にも足を運んだ。しかし、政府は考えを変えない。「裁判しかない」と決起した。難関と言われた原告集めに奔走。「争ってがんばるしかない」と説いた。 ◇ ◇ 幼い頃、はしかで高熱を出して聴力を失った。81歳の母は生活が苦しく、十分な治療を施してやれなかったせいだと今も自分を責め続けている。生命保険をかけ、自殺を図ったことも。それほど追い込まれていた。 母はもちろん、同じ聴覚障害を持つ妻も無年金。数年前からやっと産業廃棄物処理の定職を得、3人の子どもを育てている。 在日朝鮮人であること、障害者であることは2重の重荷だった。 弟やろうあ者の友人の紹介で、土木の仕事をしていたが、「明日から来なくてもいい」と突然断られた。 常に賃金は低かった。その理由を聞いた時、「障害者は年金をもらっているからそれで十分だろう」と言われたことが一番悔しかったという。 同胞のろうあ者の集まりを作ったのは81年。年金差別や民族差別に苦しみ、同胞との出会いを望む声が切実だったからだ。「悩みを話し合える場を作ろう」と京都や大阪で仲間を集め、細々と続けた。そして96年、在日同胞聴覚障害者協会が産声をあげる。 ◇ ◇
聴覚障害者が裁判をたたかうのは簡単なことではない。原告が通ったろう学校では文章の読み書きに多くの時間をさけられなかった事情から、彼らは文章の読み書きが苦手だ。健常者でも難解とされる裁判書類を読み、理解することは難しい。日本政府に対する抗弁、活動資金…。「障害者だけで裁判はたたかえない」。 裁判を始めて気づいたことがある。年金差別の事実を日本人、また同胞の多くが知らないという現実だ。 一方、京都コリアン生活相談センター「エルファ」から手話講座の講師を頼まれたり、集会の際、総聯の関係者から差し入れが入ったり。ささやかな支援がうれしかったという。 「負けたらどうする」「本当に勝てるのか」。時には迷いや不安が原告の心を大きく揺さぶる。 「傍聴席を埋め尽くし、原告に勇気を送ってほしい」(「支える会」事務局の鄭明愛さん、31)(張慧純記者) 原告証言は8月6日午後1時半〜京都地裁で。19日には大阪で、9月29日には東京で集会。問い合わせ=在日外国人「障害者」の年金訴訟を支える会、TEL・FAX 075・612・5565(増野徹気付、電話は夜間のみ)。 |