救済金は年金の半額、無年金高齢者切り捨て
「外国人無年金問題」大阪集会から―「坂口試案」でいいの?
日本政府の差別により、無年金の苦しい生活を強いられている外国人高齢者、障害者。彼らの1日も早い救済を求めて、19日に大阪で行われた集会(主催=在日外国人の年金差別を撤廃させる大阪連絡会など5団体、40団体が賛同)では、無年金障害者に福祉金を支給するとしながら、無年金高齢者を切り捨てた坂口力・厚生労働大臣の「試案」の持つ問題点に論議が集中した。
なぜ今なのか
坂口大臣は今年1月、「無年金障害者問題の年内解決をはかる」と発言、8月2日に無年金障害者に年金に代わる福祉金を支給する「試案」を発表した。 「試案」は支給対象を@82年の国籍条項撤廃前に障害を負った在日外国人(推定5000人)A86年の年金制度改正前に障害を負ったサラリーマンの妻(2万人)B学生の国民年金加入が任意だった91年以前に障害を負った学生(4000人)C国民年金に未加入および保険料を納めていない障害者(9万1000人)とし、そのうえで@施設入所者は対象外A給付には本人の所得制限を付けるB障害の程度は1、2級C福祉金の支給額は障害福祉年金(月額最高8万3000円)の半額程度を支給するというものだ。 坂口大臣が「試案」を発表した背景には、「無年金障害者問題の解決」が盛り込まれている日本政府の「障害者7カ年プラン」の最終年が今年にあたることがある。また昨年7月、各地で一斉に提訴された学生(日本人)無年金障害者訴訟の影響も指摘されている。 通常国会後に辞任の意を固めているという坂口大臣は当初、「学生無年金者に限り救済する」と言明していたものの、その後一転して「すべての無年金障害者を救済する」とする「試案」を発表した。 踏襲する「理屈」
福岡から集会にかけつけた「年金制度の国籍条項を完全撤廃させる全国連絡会」代表の李幸宏さんは、「学生無年金者は年金をかけようとすればかけられた。国籍条項によって制度から排除された外国人とは問題が違う」と述べ、「試案の最大の問題点は、外国人無年金者を放置してきた日本政府の責任が完全に抜け落ちていることだ」と非難した。 1959年発足の国民年金法は当初、加入者を日本国籍者に限ったため、在日外国人は国民年金に加入することができなかった。82年に国籍条項が撤廃、86年に一部救済措置が取られたものの、現在76歳以上の外国人高齢者、40歳以上の同障害者は制度から切り捨てられた。これが、外国人無年金者が発生した経緯だ。 坂口大臣は、「年金に相当する給付が行われることになれば、保険料を拠出してもしなくても同じ給付が受けられることになり、拠出制の年金制度に重大な影響を与えることになる」ので、福祉金の支給額を障害福祉年金の半額程度にすべきだという。しかし、国籍条項があったため外国人は年金に加入したくても加入できなかった。坂口大臣の発言は外国人に無年金を強いてきた日本政府の理屈を踏襲したものにすぎない。 国会議員も異議 また、施設入所者は福祉金の対象から除外するというが、無年金障害者は重度の場合、その多くは親元で面倒を見てもらうか施設に入所せざるをえず、その所得はゼロか自治体が外国人無年金者に対する給付金制度を設けている場合は月額数万円、働いている場合は平均1〜2万円程度の賃金だけだ。 自身も全盲で無年金の慎英弘・花園大助教授は、障害者のみを対象にした「試案」は無年金高齢者を再度切り捨てることになると指摘。また、現在700近い地方自治体が外国人無年金者に対して独自に給付金を支給しているが、政府が福祉金を支給した場合、給付金制度を廃止する自治体が出てくる可能性もあり、それは障害者をより苦しめることになると危機感を募らせた。 「坂口試案」については財務省が難色を示しているなど、その実現は確定的ではない。 一連の動きを受け、全国連絡会では、無年金障害者に対して障害基礎年金、同高齢者に対しては年金と同等の福祉的措置を求める署名運動を展開中だ。9月29日には東京で集会を開く。また、国会では、超党派議員が「無年金障害者問題の解決を求める議員連盟」の設立に向けて準備を進めている。(張慧純記者) |