われらのチャンプ 洪昌守ストーリー -3-

We are one!

統一への風穴、拳で開く


異例のタイトルマッチ

 2001年5月、白地に青色の朝鮮半島が描かれた統一旗を掲げ、「われらの願いは統一」と歌う「われらの願い」の斉唱で始まった異例の世界タイトルマッチがソウルで行われた。挑戦者゙仁柱を下したチャンピオンが観衆に向かって「We are one!」と叫ぶ。分断の壁に風穴を開けた王者の拳がリングの上に高々と挙がった。

 在日同胞ボクサーがソウルでタイトルマッチを行うのはもちろん、総聯同胞が南の同胞とともに自分たちの選手を応援するのは分断史上、初めてのことだ。

場内を揺るがした総聯同胞応援団の声援

 6.15共同宣言を受けてのソウル戦だったとはいえ、「国家保安法」が依然残る南の地。洪選手の試合ではおなじみとなっている「朝鮮」というキーワードはタブーとされた。「保安法」違反となるため、統一を願う自らの思いをこめて北南の両旗を記したガウンは、テープでその部分が覆われるほどの徹底ぶりだった。

 229人の総聯同胞応援団を含む1400余人の観衆の前に洪選手が姿を現した。本名でリングアナから名前を呼ばれると、観客のボルテージは一気に最高潮に達する。「ホン・チャンス、ホン・チャンス!!!」。声援が地響きのように場内を揺るがした。

 「いつもそうだけど、とくにソウルでの同胞たちの応援はすごかった。背中を押された感じ。(試合では)『アウェー』なのにまるで『ホーム』のような熱気に力をもらった」(洪選手)

 「同じ東京朝高ボクシング部のOB、そして後輩として必ず応援に行かなければと思った」という李昌允さん(27)の姿もあった。洪選手と同じ在日3世。民族教育を受け、日本で朝鮮人として誇りを持って生きてきた彼も、南の地を踏むのは初めてのことだ。

 「故郷の地を踏むことができたのもチャンス先輩、そして彼の試合を陰で支えたたくさんの人々のおかげ。かっここよくKOまで決めてくれて、僕らに勇気と感動を与えてくれた。感謝でいっぱいです」

 「We are one!」―われわれはひとつ。彼が試合前日に「ひらめき」、リング上で叫んだその言葉は、「保安法」に触れずに同じ民族をアピールできた最適の言葉だったのかもしれない。その魂の叫びに、在日、そして南の同胞たちも「We are one!」で応える。会場が、そして試合を見守るすべての同胞たちがひとつになった瞬間だった。

 「初めて踏んだ南の地だったが、その時はボクシング以外何も考える余裕がなかった。減量でふらふらしてたのでどこにも出歩いてないし、次の日は日本に戻ってきたので…」と、今となっては少し残念そうに答える洪選手。「ただ…」と、言葉を続ける目に力がこもった。「ただ、総聯の同胞たちをああいった形でソウルに連れて行くことができたのは、ちょっとした誇り」。

 「分断」という壁に彼の拳が開けた「風穴」の向こう側からは「希望」という光が差し込んでいる。(李明花記者)

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