〈広島 ミュージカル「交響の慶事」〉 音と舞と心の響き |
朝・日の明るい未来へ共鳴 広島の民族教育60周年記念公演ミュージカル「交響の慶事」が8月31日、広島厚生年金会館で行われ、会場は1400余人の同胞、日本の市民らでにぎわった。公演は、文化芸術を通して心と心の異文化交流を図ろうとするもので、民族教育を受けた若きアーティストや生徒たちが日本の芸術家らと共に舞台に立ち好評を得た。朝鮮半島と日本の100余年にわたる暗い歴史に終止符を打ち、07年、来聘400年を迎える朝鮮通信使が果たした親善使節としての精神と役割を受け継ごうと企画された。 友好と親善のしるし
「起」「承」「転」「結」の4章で構成された公演は、瀬戸を通り抜けていく舟を見ながら作られたという日本伝統芸能の「音戸の舟歌」から始まる。唄い手が、海を渡り朝鮮通信使が日本へ来たことを知らせると、朝鮮通信使に扮した出演者たちの華麗な行列が登場し、日本の神楽の舞、朝鮮のチェバンウル(鈴)の舞やハンサム(白い布で作られた両手につける長い袖)の舞と、互いに友好と親善を表すもてなしの舞を披露する。 時は変わって朝鮮半島の地が日本の植民地と化し、多くの朝鮮人が日本へと強制連行された苦難の時代。その「恨(ハン)」を韓国伝統舞踊で物語る。 お金も仕事もなく貧しい生活だったが、同胞たちは歌を歌い、ともに力を合わせ子供たちに民族の言葉、歴史を教えようと立ち上がった。 そしてこんにち広島市内に立派な校舎を構え、異国の地で民族の歌や踊り、楽器を学ぶ生徒たちが舞台でその喜びを表現する。 歴史的に文化、芸術を通して友好を深めてきた朝鮮半島と日本。それぞれの個性、歌の響き、楽器の響きが交わり心の響きを通わせ、これからの朝・日の明るい未来に向けて鳴り響く共鳴で幕はおりる。 民族教育60年の軌跡
「民族教育の歴史は在日1世、2世が築き上げてきたものであると同時に、日本の人々の支えと協力なくしてはありえなかったもの」だと今公演の事務局長、広島朝鮮歌舞団・河弘哲団員は指摘する。 今公演の出演者は約200人。広島朝鮮歌舞団、広島朝鮮芸術団、金剛山歌劇団ソリスト(宋明花さん)をはじめとする在日コリアンアーティスト、韓国伝統歌舞楽、広島朝鮮学園および中四国地方朝鮮学園芸術サークル、広島の神楽団、匹見の和太鼓、クラシックバレエ団、広島在住の音楽家などが出演し、朝鮮半島と日本の文化芸術のジョイントが実現した。 金一志韓国伝統芸術院の金一志院長は「民族教育は本当に貴重な財産。うらやましい」「日本で暮らす同じ在日コリアンとして、民族性を守ろうとする気持ちは同じ。ぜひ今回の舞台に協力したいと思った」と話した。 芸術がもつ力
終演後、福岡から公演を見に来た瀬尾久美子さんは赤く目をはらし、「魂の震えるような公演だった。命をかけて民族教育を子どもたちに施したオモニたち、在日の人々の深い愛情を感じた」と熱く語った。 広島市在住の黒瀬禎子さんは、「ただただ感動。生前、日朝関係発展のために尽力した父にぜひ見て欲しい公演だった。舞台で表現された日朝の交流の歴史は教科書では学べないことばかり。公演を見られなかった人は大損だ」としながら、もっと多くの日本人に見て欲しいのでぜひ再演してほしいと語った。 広島朝高を卒業し、Jリーガーとして活躍する李漢宰選手は、「とても貴重で内容がこもった舞台だった。一緒に観に来た日本の友達が民族教育の足どりをわかってくれたようでうれしかった」と述べながら、芸術やスポーツが在日と日本人をつなぐ立派な架け橋となっていることを強調した。
同じく同校卒業生の李貴蓮さんは、「地方でこんなスケールの大きい公演ができることがすごい。朝鮮舞踊とバレエのコラボは新鮮で、民族楽器と和楽器のアンサンブルは圧巻だった」と感想を述べた。 広島文芸同の朴英美委員長は、「乱世の世を平和へと導けるのが文化や芸術がもつ偉大な力。私たちは孤立した芸術を目指しているのではない。公演を通じて出演者たちの奏でる音の響き、舞の響きが観客に心の響きとなって問いかけることができたのでは」とふり返り、今回の公演に携わった人たちをはじめ、60年の民族教育の歴史の中で祖国や同胞たちから受けた愛情に感謝し、これからもずっと引き継いでいきたいと感慨深く語った。(呉陽希記者) (関連記事) 〈広島 ミュージカル「交響の慶事」〉 普段からの朝・日交流が礎に [朝鮮新報 2006.9.7] |