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横田めぐみさんの遺骨DNA鑑定問題 経緯と経過 −4−

「日本政府見解」における個別論点

 ここでは、05年2月10日付の「日本政府見解」における個々の論点について科学的に考察する。

 (1)日本政府は遺骨の鑑定が「客観的かつ科学的」であると述べている。しかし、その科学的根拠については何も述べられていない。

 「法令に基づく厳格な手続き」は法的なもので科学的であることとは関係ないし、「最も権威ある機関」で実施したことが科学的で客観的であることを示すものでもない。研究室で行われた実験は、論文として公表され、世界中の科学者に閲覧されてこそ科学的で客観的であるかどうかの判断を仰ぐことができるのであり、遺骨鑑定についても第三者の立場にある多くの科学者に科学的客観性の判断を求めなければならないことはこれまで述べてきたとおりである。日本政府の遺骨鑑定は、実験について具体的に公表されたものは何もなく、実験科学の基本を無視したものであり、客観的でもありえない。

 日本政府は共和国側が日本の鑑定の技術水準を認識していないと述べているが、客観的、科学的であるかどうかと、技術水準とは無関係である。技術水準について述べたいのであれば、技術水準を示す実験データを具体的に示さなければならない。

 日本政府は遺骨から別人のDNAが検出されたことは事実であると述べている。これは実験データの一つであるが、科学的かつ客観的なものでないことは、これまで考察したように、また「ネイチャー」誌が指摘するように明白なことである。すなわち実験データとしては事実であるかもしれないが、DNA鑑定の結果は、科学的かつ客観的には「判定できない」というべきである。ちなみに「ネイチャー」誌の記述が科学的で客観的であるというのは、「権威」があるからでも論文の「水準が高い」からでもない。世界中の科学者に読まれ、世界中の科学者から科学的かつ客観的に記述された科学雑誌であることが広く認められているからである。

 以上に加え、「共和国側の見解は全く受け入れられない」「日本政府の結論を否定することは不可能である」という断定的な態度は、「自分たちの主張は絶対に正しい」という前提に基づく尊大な態度で、相手の意見を受け入れず、物事を客観的にみる態度もまったく見られない。科学者はもとより誠実な人間のとる態度ではなく、議論を拒否して自分たちの意見を絶対的なものとして押し付ける態度である。

 (2)日本政府は帝京大学の鑑定結果をもって科学的根拠としており、東京歯科大学、科学警察研究所でDNA鑑定ができなかったことに関して実験を公開しないのはもちろん、科学的な考察をしていない。DNA鑑定ができなかったことは追証性がなかったことであり、科学的に信頼できないことを意味するものである。

 (3)日本政府の「火葬した骨の一部が熱に十分さらされなかったためDNAが残存することはあり得る」という主張は、実験により根拠を示さなければ科学的に説得力がないことは既述した。

 (4)骨片5個に対する1回目と2回目の分析結果が互いに異なるということは、実験の再現性がなかったということである。再現性がないことは予想されることかもしれないが、同時に科学的かつ客観性を欠いた実験結果であることを示している。

 (5)共和国側の主張は、2月3日号の「ネイチャー」誌の科学記者に対して、吉井氏が、「遺骨は何でも吸い取る硬いスポンジのようなものだ。もし、遺骨にそれを取り扱った誰かの汗や油が浸み込んでいたら、どんなにうまくやってもそれらを取り出すことは不可能だろう」と述べていることから書かれたものであろう。洗浄液からDNAが検出されなかったからといって、鑑定結果のDNAが付着した汚染物質でないとは断定できない。そのような主張をするならば、その主張の科学的な根拠を提示しなければならない。特に、実験における情報を最も有すると考えられる直接試料を扱った鑑定者の上記の意見とは異なる主張は、根拠を明確に示すべきである。

 共和国敵視を煽る日本社会

 このような背景には、共和国敵視を扇動する日本の政治家と政治組織、メディアの存在がある。02年9月の日朝首脳会談以降、連日夥しい共和国情報がマスコミを通して流れているが、それらは共和国に対する強硬な姿勢や、憎悪や敵意を煽るものがほとんどであり、未確認情報や誤報も多く含まれている。その一方で、共和国の主張に耳を傾ける知識人に対しては、理不尽な攻撃が集中砲火のように浴びせられた。

 03年8月、日朝交渉に積極的に関与してきた当時の外務審議官・田中均氏の自宅に時限爆弾と思われる不審物が仕掛けられた。幸い怪我人は出なかったが、「国賊征伐」が使命だというグループが犯行声明を出した。この件に関して、石原慎太郎都知事は、「爆弾を仕掛けられてあったりまえだ」と言い放った。

 このような中で、朝鮮総連や関連施設、在日朝鮮人に対する弾圧、暴行、人権蹂躙は極めて深刻な状態にある。07年1月、漆間警察庁長官(当時)は記者会見で、「北朝鮮に日本と交渉する気にさせるのが警視庁の仕事。…『ここまでやられるのか』と相手が思うように『事件化』し、北朝鮮が困る事件の摘発が拉致問題を解決に近づける」と述べている。

 このような中で、不正なDNA鑑定問題も埋没していると考えられる。そして、メディアがこの流れに迎合して、国民に共和国に対する敵愾心を植えつけ、共和国に対してはどんな理不尽なことでもやってかまわない、共和国が主張することはどんなに正当であっても受け入れられない、というような理性を失った感情を作り出す一方、日朝交渉に積極的な政治家や共和国に理解を示す知識人に対しては、暴行、テロ、暗殺を煽る雰囲気が日本社会の一部に存在している。このような誤った国民感情が、多くの科学者が科学的不正義を告発、糾弾できない原因となっていると思われる。

 科学的不正は訂正されなければならない

 しかし、科学者は常に自然現象に対して忠実であり、科学的かつ客観的な立場でなければならない。科学的事象が恣意的に解釈されたり、政治によって歪曲されることは決してあってはならないことであり、誤った科学的事象は科学者自らの手でいち早く訂正されなければならない。このようなことを国家レベルで放置しておくことは、日本の科学の国際的信用を失墜させることに他ならない。日本の科学者、科学を知るものは、科学的不正義に対して訂正するように、各学会を通して、あるいは直接、日本政府に対して、以下のことを働きかけるべきである。

 (1)日本政府と鑑定者である吉井富夫氏は、横田めぐみさんの遺骨のDNA鑑定結果が信頼できないことを認め、「共和国政府が偽物の遺骨を渡した」という報道は根拠がないことを、メディアを通して日本国民に通知しなければならない。また、誤った報道に対する原因と責任を明確にすべきである。

 (2)日本政府は、科学的かつ客観的な遺骨のDNA鑑定を行うのであれば、実験科学の手続きに従って鑑定実験を行い、必要に応じて実験に関するすべての情報を公開し、科学界に広く科学的かつ客観的であるかの判断を仰がなければならない。(熊本県朝鮮会館問題を考える市民の会、永好和夫)

横田めぐみさんの遺骨DNA鑑定問題 経緯と経過 −3−

横田めぐみさんの遺骨DNA鑑定問題 経緯と経過 −2−

横田めぐみさんの遺骨DNA鑑定問題 経緯と経過 −1−

[朝鮮新報 2007.12.14]