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在朝被爆者問題 解決へ向けた取り組み強化 原水禁ら支援計画発表

「政府動かし政治的解決を」

 日本の過去清算問題の一つとして、現在も未解決のまま残っている在朝被爆者問題の解決を求める声が内外で高まっている。在朝被爆者団体である反核平和のための朝鮮被爆者協会(被爆者協会)は4月22日、平壌で記者会見を開き、問題を放置してきた日本政府の対応を非難した。一方、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)も24日に東京都内で開いた記者会見で、朝鮮側から提供された在朝被爆者に関する調査報告書(別項参照)の内容を公表、「問題をこれ以上放置することはできない」と訴え、解決に向けた取り組みを強化していく立場を表明した。

日本政府の責任

4月22日、平壌市内で行われた記者会見で問題解決を訴える在朝被爆者

 今回、被爆者協会が新たに作成した報告書によると、現在確認されている生存中の在朝被爆者は382人。多くは高齢化に加え、被爆による各種疾病によって今も苦しんでいる。

 被爆者協会の桂成訓書記長は在朝被爆者問題について、「日本の植民地支配による産物であり、日本の過去清算に直結する問題」だと指摘する。原水禁の井上年弘・事務局次長も「問題の本質は60年以上にわたって解決を放置してきた日本側の政策にある」と強調している。

 1994年に制定された被爆者援護法には日本の戦後補償立法の中で唯一、国籍条項がない。同法の枠内で在外被爆者に対する援護が可能だが、日本政府は74年の厚生省通達を理由に在外被爆者を援護の対象から排除してきた。

 その後、被害者らの地道な運動によって在外被爆者問題には一定の前進があった。日本政府は04年から始まった在外被爆者保険医療助成事業に基づいて、居住国に関係なく被爆者健康手帳を所持している在外被爆者に年間1人当たり13万円(入院時には14万2000円)を限度に医療費を支給している。

 不十分ながらも在外被爆者に対する一定の援護が可能になったが、問題がすべて解決されたわけではない。在朝被爆者の援護に関しては、国交がないという理由で日本国内の被爆者はもちろん、他の在外被爆者の水準にも達していないのが現状だ。

 日本政府関係者は2000年3月、朝鮮から被爆者協会代表団が訪日した際に、在朝被爆者問題の早期解決の必要性を認め、翌年3月には政府レベルの調査団を朝鮮に派遣して実態調査を行った。04年7月には当時の厚生労働大臣が在外被爆者に対する医療支援を国家の差別なしで実施していくと発言したが、現在まで大きな前進はない。

 とくに06年の核実験以降、日本政府の対朝鮮制裁が強まったことで状況はさらに厳しくなっている。被爆者健康手帳の取得に関して、日本政府は被害者が来日して申請すれば国籍を理由に排除しないことを表明しているが、制裁が発動されている状況下で健康状態の悪化した被害者が訪日するには負担が大きい。

 在外公館を通じた手帳取得を立法化する動きもあるが、法律改正にまでは至っていない。仮に実現しても、国交のない朝鮮側からすれば同じことだ。

 また、被爆者確認には他の被爆者の証言などクリアすべき問題が多い。生存者自体が少なく、記憶も薄れていく中で自己申告にならざるをえない在朝被爆者にとって条件は厳しい。

まず全体補償を

 朝鮮側は被爆者問題に関して、個人に対する援護策よりも、まず全体に対する謝罪と補償が必要だという立場を一貫して堅持している。問題を今まで放置してきた謝罪に加え、死亡者も含めた被害者全体に対する補償が必要との考えだ。

 原水禁側も朝鮮側の希望に沿った解決を目指す意向を示している。「朝鮮側が求めている謝罪と一括補償をベースにして、個々に対する援護制度も適用させる方向で進めていく。あくまでも全体の謝罪と補償が先にあるべきで、日本側が個人に対する援護策だけで責任を果たしたと主張し、謝罪も全体補償も不問に付すことを朝鮮側は一番警戒している」(井上氏)

 原水禁は当初、手帳取得に向けた在朝被爆者の訪日など、現行の被爆者援護制度を利用する形で問題解決の突破口を開く考えもしていたが、朝鮮側は難色を示したという。「この方向で朝鮮側の理解を得るのは、今まで放置されてきた経緯からしても難しいだろう」と井上氏は話す。個々人に対する援護は、「日本側が在朝被爆者問題に関して戦後補償の問題として謝罪し、全体補償を行った上で付け加えられるべきものだ」。

6月に訪朝団派遣

 原水禁は昨年から在朝被爆者問題の解決に向けた取り組みを強化している。昨年10月6〜10日に訪朝団を派遣、被爆者に対する聞き取り調査や関係者との協議を行った。12月には在日朝鮮人被爆者連絡協議会、ピースボートなどの団体と在朝被爆者支援連絡会を結成した。

 先の記者会見では▼政府や政党、国会議員、地方自治体に対する要請▼訪朝団、医療チームの派遣▼被爆者協会への支援などの行動計画が発表された。

 要請行動については、外務省や厚生労働省などの関係各省に朝鮮側の調査報告書の内容を報告し、今後の対応強化を求める。日朝国交正常化を推進し、人道的立場から早急に被爆者支援政策について政府レベルで取り組むよう要請するという。民主党や社民党などの野党とともに、与党側に対しても国交正常化に取り組む勢力を中心に働きかけを強める。

 また、6月23〜26日まで3泊4日の日程で訪朝団を派遣することが決まった。被害者との面談、被爆者協会や当局関係者との協議などを希望している。日本における要請活動の結果をもって、朝鮮側と今後の活動について話し合う予定だ。訪朝を通じて「被爆者の声を拾い上げて世論を喚起したい」としている。

 医療チームの派遣については、広島県医師会が訪朝を希望する意向を示しているが、具体的な内容は固まっていない。本格的に動き出すのは今年末から来年にかけてになるという。

 日本国内の被爆者問題に比べると、在外被爆者問題に対する取り組みは活発とは言いがたい。「このまま時間だけが過ぎれば被害者がゼロになり、何もしないまま終わってしまう」と関係者は危機感を募らせる。

 井上事務局次長は、「政府が表立って動かない状況で、われわれが間に入って日朝をつなげる活動をすべき」と問題解決に向けた民間の役割を強調する。

 民間が政府の代わりに財政的な支援を行うには限界がある。政府を動かして政治の場で問題解決を図り、国交正常化につなげていくことが重要との指摘だ。

 「被爆者に国籍や居住地は関係ない。時間はかかるが、在朝被爆者問題には政治的解決が必要だ」(相)

在朝被爆者の実態 8割が死亡、高齢者も深刻

[朝鮮新報 2008.5.21]