環境の世界へ(上)


 「理想」が生むリスクとチャンス

 資源の再利用サイクルを高度に実現した循環型社会へ――。あくなき生産と消費、それにともなう大量廃棄や二酸化炭素の排出による環境破壊は、人類存亡をも左右する重大な局面に至った。新世紀は「環境の世紀」と言われ、経済活動と環境保全の両立が、全世界的な課題になる。その中ではいかなる企業も、環境への配慮なくして存在価値を認められない。新しい経済への転換が、企業経営に及ぼす影響を見る。

先発組は積極取り組み/

コスト増大

 経済の環境負荷を抑えるには、企業の省エネルギー、省資源努力が不可欠だ。

 「生産―使用―廃棄―再資源化」という循環型社会が理想で、日進月歩の科学技術をもってすれば、十分可能だと指摘されている。

 ただし、一部の努力では到底実現し得るものではなく、ある種の強制力をもって経済全体の流れに組み込まれなければならない。そこに、企業にとってのリスクが生まれる。

 最たるものが、環境に関する各種の法規制だ。日本では90年代に入り、企業などに商品の再資源化や省エネ努力を義務づける法律が矢継ぎ早に制定された。

 いずれのケースも、企業にとってコスト増になる。義務を怠れば罰則を課されるうえ、企業イメージも傷付く。11月に東京で行われた「地球環境経済人サミット」では、名だたる大企業の幹部から「(今後は)顧客が商品を選別する基準として『環境』は外せない」との発言が相次いだ。

エコファンド登場

 こうしたリスクも、クリアの仕方によっては他社との競争材料になる。

 容器、家電製品などは、リサイクルの基準は定められているものの、具体的な方法は企業に選択と工夫の余地がある。

 例えば、他社より効率的で低コストのリサイクルの仕組みを作れば、価格競争において優位に立てる。

 環境負荷の低さを基準に商品の購入を進める運動もある。代表的なのが、独自の購入ガイドラインを持つ「グリーン購入ネットワーク」だ。今年10月現在で約2000の企業や自治体が会員になり、環境に配慮した物資調達を進めている。また、一般消費者の環境意識も高まる傾向にある(センサー参照)。

 さらに注目すべきなのは、環境保全への取り組みが企業の資金調達、信用力にも影響することだ。

 単純に考えても、環境問題が企業にとってリスクになるなら、金融機関も融資先の環境対策に関心を払うはずだ。

 また、欧米には倫理・社会的な面から投資対象を選別する「社会的責任投資」という概念があり、たばこや兵器産業などが「好ましくない」事業として対象外に置かれて来た。

 その1つの形態として、環境保全の取り組みを基準に対象企業を選ぶ投資信託「エコファンド」がある。日本でも今年八月に登場し、すでに約1700億円の資金を集めた。

資金調達力にも影響/

全産業でブーム

 環境保全を怠れば市場で孤立するが、逆に優れた企業には顧客や資金が集まる。リスクも、取り組み次第でチャンスに転じるというわけだ。

 先進的な企業群はこの変化に敏感に反応。日本では企業の環境管理における国際規格―SO14001認証の取得がブームになっており、環境保全のコスト・リターンを測る環境会計の導入も活発だ。

 こうした傾向は、製造業などに限らず、全産業で見られる。小売業としては、他社に先駆けて―SO14001を取得した都内の大手百貨店でも、日々の業務で環境管理を徹底。ある同胞女性のスタッフによると、「紙ゴミにビニール一枚混じっても、上司に厳しく指導される」ほどだ。
 環境対策も今や、競争の時代に入った観さえある。次週は、企業の取り組みについてより具体的に見る。 (金賢記者)

-リサイクル義務化進む-

 1997年から段階的に施行されている「容器包装リサイクル法」では、消費者が分別排出したガラスビン、ペットボトルを市町村が回収。それを企業が責任をもって再商品化する。来年4月からは紙製とペットボトル以外のプラスチック製容器包装も対象となる。

 2001年4月施行の「家電リサイクル法」は、テレビ、洗濯機、エアコン、冷蔵庫の4品目について、不用品を消費者が小売店に引き渡し、それを製造業者が回収して再商品化する。費用は消費者の負担だ。

 さらに次期通常国会では、生ゴミ・残飯のリサイクル義務化(外食大手など対象)や、廃棄物処理法の改正が審議される予定だ。