ニュースの眼

外国人はお風呂に入れない?、入浴差別を考える


風習かマナー違反か、人権か営業か
外国人客と経営者―主張は平行線

 外国人はお風呂に入れない?――日本各地で最近、「外国人だから」という理由で入浴施設の入場を断わられる差別事件がマスコミを賑わせている。事例を追ってみた。

国際観光都市¥ャ樽で

 この問題で今、全国的な注目を集めているのが、皮肉にも「国際観光都市」を掲げる北海道・小樽市だ。対ロシア貿易が活発な小樽港の近くに位置する一部の温泉施設が、「外国人お断り」の看板を掲げていることが問題になっている。

 施設側の言い分は「マナーの悪い外国人の入浴で、日本人客が逃げてしまう」。これに対して外国人や市民団体などは「明らかな人種差別。外国人に限らずマナーの悪い客はいる」。

 双方の主張は平行線だが、道義的にはもちろん、「人種、信条、性別などによって政治的、経済的または社会的に差別されない」と定めた日本国憲法や、日本も締約国である国連・人種差別撤廃条約からみても、理は後者にある。

 実際、外国人だという理由で入店を拒否した浜松市内の宝石店主を相手にブラジル人記者、アナ・ボルツさんが起こした損害賠償請求訴訟では昨年10月、人種差別撤廃条約を適用した画期的な判決が下され、ボルツさん側が勝訴している。

 相次ぐ批判、働きかけに小樽市は昨年10月と11月の2回、解決策を論議する場を設けたが、参加者に外国人がいなかったことに批判の声が出て、問題は今もこじれたままだ。「お断り」の看板を掲げていた3施設中、1施設は昨年11月に看板を下ろしたものの、外国人らは市に外国人差別防止条例の制定を求め、引き続き運動を行っている。

「向こうの方ですね?」

 こんな例もある。東京都内に住む南朝鮮からの女子留学生と、彼女の引っ越しを手伝いに来ていた姉の2人は、作業の疲れを癒そうと近くの銭湯に行った。つい先月のことだ。

 姉妹が母国語を話しながら入っていくと、番台の女性が日本語で「日本人の方ですか?」と聞いた。「いえ、違いますけど」と、姉妹は日本語で答えた。

 すると番台の女性は「向こうの方ですね? ちょっと待っててください。これを読んでください」と言いながら、入浴のマナーについて数ヵ国語で書かれたポスターを示した。そして電話をかけ、姉妹に受話器を手渡した。

 電話に出た銭湯側の別の女性は「この前、外国人の方が1時間以上入っていてトラブルになって、ケンカになっちゃって、外国人の方はお断りしています」。姉妹が「それは国の問題ではなくて、人の問題ですよね」と言っても、「とにかく、うちとしては困るんですよ」の一点張り。姉妹は入浴をあきらめ銭湯を後にした。

 姉妹の通報を受けて、銭湯側と話し合った外国人留学生支援団体「東京エイリアンアイズ」(http://www.annie.ne.jp/~ishn)の高野文生代表(33)は、「外国人だという理由で拒否するのは差別だと指摘し、今後こうしたことのないよう抗議した。どこまで本気で納得したのかは分からないが、一応は『わかった』という返事を得た。姉妹はたまたま私たちを知っていたので問題が表面化したが、似たような話は他の留学生からもよく聞く。今回のケースは氷山の一角だろう」と語る。

理解不足が偏見に

 「外国人客はマナーが悪く、他の日本人客が迷惑する」。どちらのケースも、経営者側の言い分は同じだ。

 マナーが悪いとみなされるのは、風習の違いによるところが大きい。実際、小樽港によく出入りするロシア人船員は「サウナで酒を飲むのはロシア人の習慣。日本の習慣を教えてくれれば直す」と語っている(読売新聞1月23日付)。理解不足が偏見を生む。

 しかしこれは、経営者個人の偏見という次元で片づけられるほど単純な問題ではない。問題となっている小樽の施設の1つが先日、利用者を対象に実施したアンケート(常連客中心に837人が回答)で「外国人を受け入れるべきだ」と答えたのはわずか70人に過ぎず、逆に「受け入れたくない」または「受け入れは拒否すべきだ」と答えた人は計423人に及んだ。

法的、制度的取り組みが緊要
市民レベルで相互理解促進を

 こうした市民感情の背景には、日本政府の外国人差別政策があると言える。日本政府は、解放直後から一貫して在日同胞の人権を踏みにじってきた。そのため社会的に外国人の人権を尊重する意識が育たず、それを引きずったままの日本社会は80年代以降、急増した「ニューカマー」ときちんと向き合うことができないでいる。そして、他の多くの国では刑罰対象になりうる人種差別事件が起きても、野放しのままだ。言うまでもなく、「オールドカマー」在日同胞に対する入居差別や就職差別、また朝鮮学校児童生徒への嫌がらせ事件などの差別事件は、現在も後を絶たない。

 そんな日本が重い腰を上げて国連の人種差別撤廃条約の締約国になったのはつい4年余り前のことだ。しかし、条約が定める人種差別禁止法の制定は未だ行われていない。小樽のケースがこじれ、外国人らが市に条例制定を求めるのもそのためだ。浜松のボルツさんも市に同様の条例制定を求めている。

 まずは日本政府が、人種差別禁止法制定などの制度的な差別禁止と教育、啓蒙活動に努める必要がある。同時に市民レベルでも、対話による相互理解への取り組みが不可欠だろう。 (韓東賢記者)

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