1月から導入された定期借家制度
更新から再契約へ、歪み生まない「保護」必要
良質な借家を供給
契約期間が終われば家主側が契約を打ち切ることができるとする、定期借家制度の導入を盛り込んだ「良質賃貸住宅の供給促進特別措置法」が1日から実施された。新制度の導入によって、日本で借り家住まいをしている約1700万世帯が何らかの影響を受けるものと思う。部屋を借りるのに苦労している同胞も多く、従来の借地借家法と比較しながら、その仕組みを見てみた。
在日同胞、変わらない借りにくい状況
家主に戻らない
定期借家制度は契約期間が終われば、家主の通告で契約を打ち切る事ができる。なぜこのような制度が設けられたのか。
定期借家推進協議会(東京・千代田区富士見)の事務局は、何よりも良質な賃貸住宅を安心して供給するためだと説明した。
現行の借地借家法では、家主が貸していた家を使うことになったなどとする正当な理由がないかぎり、いったん、出回った貸家は家主側になかなか戻ることはなかった。そのため、借り主、貸し主の間に明け渡しなどの問題でトラブルが多く発生し、良質な住宅を家主が出さないという結果をまねくことになった。
従来の賃貸借契約は、1941年に制定された借地借家法に基づいており、住宅不足の時代に、家主が不当な理由で借り主に弊害を与えないようにと、借家人保護の役割を果たす意味があった。
だからトラブルが発生し、訴訟となった場合、ほとんどが借り主に有利となっていた。この状況を取りあえず「対等」にしようと借地借家制度の一部を改正し、定期借家権の導入を図ったのが今回の措置だ。
交渉力が必要
貸家住まい、とくにアパート、マンションなどを借りる際、外国人などの理由で断られるケースが今も目につく同胞にとっては、有利、不利のどちらに動くのか、といえばいちがいには言えないのが実情だ。高齢者、障害者についても同様のことが言える。
同法が昨年12月9日、参議院で可決・成立した際に、セーフティネット(弱者保護)についても考慮すべきだとする意見が少なくなかった。
これまでの借家契約では期間が終了しても自動的に更新という形が取れていたが、定期借家契約では、更新というものがなくなり、期間満了後、継続して借りたい場合は、家主と交渉して再契約という形をとる。その際、家主は当然契約に従って、再契約を断ることもできるのだ。貸す側、借りる側の双方が選択し、責任を持って契約することになる。だがこうなれば、どうしても借りる際、断られやすい人、交渉力の弱い人には不利と取れてしまう。
4年後に見直し
多くの同胞に借家をあっ旋してきた東京・足立区の丸富商事不動産の鄭安舞纒\は、定期借家制度の導入が同胞に与える影響について「すぐに同胞に不利な状況をもたらすということにはならない」と指摘す
る。
これまではいったん貸せば、家主側に期間を定められないため、容易に貸したがらない傾向にあったが、定期借家契約を結ぶことによって、契約(1年以内でも可)を結んで、さらに再契約で年数を増やすこともできる。貸す側が再契約をしない場合は、1年から6ヵ月前までに賃借人に通知しなければならない。
「外国人が借りにくい状況に変わりはないが、定期で返すのだから、という契約の結び型を有利に活用する、ということも考えられなくもない。だが今後、この制度がどう広がっていくのか見守る必要がある」(鄭代表)
従来の借家契約を結ぶことも可能だが、今後は定期借家契約に移行していく、と推進協議会側は言う。だとすれば、在日外国人、高齢者、障害者などが現在住宅確保に苦心している実情を考慮しないままでは、新たな歪みが生じるはずだ。
さらに、貸す側、借りる側を「対等」にするというのであれば、こうした2重、3重の弱者保護ができてこそ「対等」を謳えるのではないか。
実際、部屋を借りる際、なかなか借りられず、不動産屋を何軒も回ったという同胞の話には枚挙に暇がない。借りても、家主に契約を打ち切ることができるとなれば、住宅問題が不安定になりかねない。
1日の実施から4年後に見直すとされているが、注目したい。 (金美嶺記者)