介護サービス、大型市場に相次ぐ参入
初年度4兆3000億円、高齢化背景に成長期待


難しい収益確保、当面は受給にムラ

 4月にスタートする介護保険は、利用者が一定の負担のもとにサービスを選択する。言わば、ビジネスにおける消費者と商品の関係に限りなく近付くわけだ。社会の急速な高齢化を背景にした、情報通信関連や環境分野と並ぶ「有望市場」とも言われており、民間企業が続々参入している。当面の市場の展望などを探った。 



訪問介護大手・ニチイ学館

訪問介護大手の事業態勢

企業名

介護拠点

ヘルパー

主な提携企業

ニチイ学館

750ヵ所 2万4000人 セブン−イレブン・ジャパン
三井物産、日本生命、福岡銀行
コムスン 800ヵ所 1万6000人 NTTデータ、第一生命


8兆円の試算も


 厚生省が初年度の介護費用としてはじき出した額は、4兆3000億円。ちなみに、同胞になじみの深い焼肉業界の市場規模は年間6000億円で、ようやく1兆円の大台が見えて来たとの声がある。

 ただし厚生省の数字は、2000年度の概算要求に際して策定された11ヵ月分の数値で、12ヵ月分だと4兆7000億円近くなる。また、これは実際に在宅サービスを受ける人の数を、要介護者の3割程度と低めに見積もった数字で、実際の需要はもっと増える可能性もある。朝日生命などは、初年度で8兆5000億円と試算。2040年には、倍近い16兆5000億円になると予想している。

異業種も続々

 この大型市場の出現をにらみ、企業の動きが慌ただしい。

 訪問介護大手のニチイ学館は4月までに全国750ヵ所に拠点を設置、自社の養成講座で育成した人材を中心に、2万4000人のヘルパーを揃えるとされる。

 元来、医療事務が本業の同社は、介護に関しては経験が浅かったが、昨年7月に訪問介護の企業を合併して態勢を強化。その後もセブン−イレブン・ジャパン、NEC、三井物産と高齢者を対象にした配食・買い物代行会社を設立したり、顧客への情報サービスで地方銀行と組んだりと、業容の拡大を進めている。

 一方、福岡市に本社を置くコムスンも、全国に800以上の拠点を設置し、1万6000人のホームヘルパーを確保。NTTデータや第一生命と提携しながら、24時間巡回型のケアサービスや訪問入浴など総合的なサービスを提供する。

 異業種からの参入も続いており、日立(ケアプラン作成システム)、松下電工(訪問介護)、丸紅(介護用品販売)など大企業の名が並ぶ。タクシー会社がヘルパー資格を持つ運転手で送迎サービスを始めたり、東京・下町の40社が共同でケアプランづくりの専門企業を立ち上げるなど、中小企業の動きも活発だ。

シェア争い激化
     

 では実際のところ、介護は商売として成り立つのだろうか。これについては、実は慎重な見方も根強い。高齢化を背景とした介護市場は、需要面では高成長が期待できるが、収益の確保は別の話だと言うのだ。

 理由の1つが、コストに占める人件費率の高さだ。

 介護サービスは人が人を支える事業と言える。そのため、訪問介護などで1人のヘルパーが担当できる利用者数は自ずと限られる。

 ある事業者は、「今は15人のヘルパーを抱えるが、こなせる利用者の数は80人前後と見ている。事業を軌道に乗せていくには、ち密な経営、地域密着、ボランティアとの協調が不可欠になる」と話す。人件費の割高な熟練ヘルパーを避け、経験の少ないヘルパーを大量に雇って事業を拡大しようにも、それでは利用者の望む質を保てなくなってしまう。

 ほかにも、サービス報酬は介護保険から定額が給付される仕組みのため、利用者1人当たりの単価が一定以上伸びないこと、介護用品も飛ぶように売れる商品にはなりにくいことなどが指摘されている。

 だが差し当たっては、需給関係のムラが問題になりそうだ。特別養護老人ホームや老人保健施設など、サービス基盤の整備が進まない一方、要介護者のケアプラン申し込みも低調で、当初見込まれていた需要が表面化するまで時間がかかりそうだからだ。

 政府や大手企業は制度の周知徹底に躍起だが、サービスの内容まではなかなか利用者に浸透できず、積極的な需要を誘い出せていない面もある。

 当面は大量のケアマネジャーと総合的なサービスで顧客を囲い込む大手に、地域密着を武器に中小が対抗する形で、シェア争いが進みそうだ。 (金賢記者)     

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