それぞれの四季

パンジーの花束/李錦玉


 風が冷たく、春は門口に立ち止まったまま動こうとしない午下り。

 通りの花屋の店先で濃い紫色と黄色のパンジーの花束を見つけた。私はとっさに身をかがめて、その小さな花束を手にとっていた。パンジーの花束には、大切な思い出があった。

 家に帰ると、ピョンヤンで求めた、両手でくるむと心地よい温もりが伝わる青磁の花瓶にパンジーを入れた。

 机の灯りに色鮮やかに浮かびあがる花の色に、私はいつまでも見入っていた――。

 あの頃の私は30少し過ぎ、新しい仕事に打ち込んでいたが、体をこわして4ヵ月程の入院生活を余儀なくされた。

 家人や子供たちに一方ならぬ負担を強いたばかりでなく、私自身も相当無理をしていたらしく体が悲鳴をあげてしまったのだ。辛いベッドでの日々。苦労をかける家人や子供たちに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 そんな時、3人の子供たちが突然、ランドセルを背負って、学校の帰りに病院へ来た。驚く私に長女が「オンマこれお花」といって、小さな手で差しだしたのが、パンジーの花束だった。

 病む母を思い、一生懸命に考えたすえパンジーの花束を買うと、一目散に病院へ飛んできたのだろう。

 私は3人の子どもをぎゅっと抱きしめ、涙があふれそうになるのをこらえた。

 家族がひとつになって生きて歩いてきた。やさしさと強い思いやりで結ばれていたきずな。パンジーを眺めながら、しみじみと思い返している。 (童話作家) 

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