制度から置き去り、無年金の同胞高齢者・障害者
救済の経過措置取られず


 現在74歳以上の同胞高齢者、38歳以上の同胞障害者は国民年金が受給できない。日本政府が1982年に国民年金制度の国籍条項を撤廃した時、制度の谷間にいた在日外国人を救済しようとしなかったからだ。置き去りにされた無年金の同胞たちは、苦しい生活を強いられている。

なぜ無年金なのか?

 1959年に制定された国民年金法には当初、加入者を日本国籍を持つ者に限定する国籍条項があった。そのため当時、在日同胞をはじめとするすべての外国人(米国人のみ「日米通商航海条約」によって例外)は国民年金に加入することができなかった。

 82年1月1日、日本政府は高まる批判の声や自ら批准した国連・難民条約の発効などを受けて国民年金制度から国籍条項を撤廃したが、外国人を救済するための経過措置は取らなかった。そのため、次のような問題が生じた。

 (1) 82年1月1日の時点で60歳に達していた外国人高齢者は年齢要件を満たせずに国民年金に加入できず、老齢福祉年金の支給対象からも外された。

 (2) 同時点で35歳以上60歳未満の人は、仮にそれから保険料を納付しても60歳までに老齢基礎年金受給に必要な25年の資格期間を満たせないことになった。

 (3) 同時点で20歳を超えていた外国人障害者は障害福祉年金(現在は障害基礎年金)の支給対象から外された。

 (4) 同時点で母子家庭や準母子家庭の状態になってい外国人は母子・準母子福祉年金の支給対象から外された(現在はこの制度はない)。

 86年4月の法改定時に一部救済措置が取られ、在日外国人が除外されていた61年4月1日から82年1月1日までの20年9ヵ月が資格期間に合算されることになったが(対象者は永住者と日本国籍取得者)、この救済措置もこの時点で60歳以上を超えていた人には適用されなかった。

 結果的に、今年4月現在で74歳以上の外国人高齢者、同1月現在で38歳の外国人障害者が、国民年金制度から除外され、無年金状態に置かれている。

82年国籍条項撤廃時

 日本政府は1959年の国民年金制度創設当時、受給資格を満たすことができない日本国民が無年金状態とならないように経過措置を取った。

 保険料徴収開始時点で五十歳を超えている人については、保険料を納めなくても70歳になれば支給される無拠出制の老齢福祉年金の制度を設けた。またすでに70歳を超えていた人にはただちに老齢福祉年金の支給を開始した。さらにその時点で20歳を超えていた障害者についても法施行日をもって「障害認定日」として障害福祉年金を支給する制度を設けた。

 しかし、82年からの外国人への制度適用と86年の国民年金法大改定に際しては、制度の谷間にあった外国人に対する救済策は講じられなかった。救済を求める同胞らの要求に対し、それを拒否する厚生省の理屈は要約すると次の2点だ。

 (1) 国民年金制度は社会保険方式が基本なので、82年まで保険料を払っていない在日外国人には年金を支給できない (2) 82年の国籍条項撤廃は制度の発足ではなく拡大。経過措置とは、制度発足時に行うもので制度の途中ではしないのが原則。

 しかし、そもそも国民年金は納付される保険料だけでなく、それに税金を加えたものを財源とする。国民年金制度は59年に「国民皆年金」のスローガンのもと、自営業者などそれまで公的年金制度に入れなかった人を対象に発足した。前述したようにその時、すでに障害者や老齢者であるなどまったく本人の責任によらずに保険料が払えず、年金受給の必要がある人には、経過措置を取って、税金で補償して救済する制度を盛り込んでいる。

 在日外国人が日本国民と同様に税金を納めていることや制度の精神から見ると、82年に外国人の無年金者が出ないように救済措置を取る方のが当然だったと言える。在日外国人は、82年まで国籍条項のために国民年金に加入できず、保険料を払いたくても払えなかったのだ。加入を拒否しておいて、加入していなかった(保険料を払っていなかった)から駄目というのはひどい理屈だ。

 また制度の途中で経過措置は取らないというが、実際には68年の小笠原返還と72年の沖縄返還の際、当該地域住民に対して、95年には中国残留帰国者に対して、それぞれ経過措置を取っている。外国人だけ救済しないというのは明らかな差別だ。

 さらに言えば、対象となる在日外国人のほとんどは在日同胞だ。そして国民年金制度における老齢福祉年金の受給対象から除外されている74歳以上の同胞は、過去の日本の植民地政策の犠牲者たちである。日本による強制労働などによって障害を負った人も多い。日本政府はこの点も考慮すべきであろう。

 在日同胞の若い世代や健常者が税金と自らの保険料を払いながら、年金を受給できない高齢の親や身内の障害者を扶養するという二重の負担を強いられていることも忘れてはならない。さらには、無年金の同胞障害者が無年金の高齢の親を扶養するケースさえあるのが現実だ。

 こうした状況に、暫定的な措置として独自の救済制度を取る自治体も増えている。しかし、その金額は一部を除いて年金の水準に及ぶものではなく、生活保護を受けている人は除外されるなどの制約もある。やはり抜本的な救済策、制度の見直しが求められよう。

 日本弁護士連合会(日弁連)は96年2月、厚生大臣に対して要望書を提出。国民年金の適用から除外されている在日同胞高齢者・障害者に年金が支給されるよう求め、国民年金法の改正を強く促した。日弁連は、無年金同胞を置き去りにしている現在の国民年金制度は、国際人権規約に違反し憲法にも抵触する恐れがあると強調している。

不当な日本政府

外国人だけ放置したまま/沖縄、中国残留帰国者は救済

 日本政府は1959年の国民年金制度創設当時、受給資格を満たすことができない日本国民が無年金状態とならないように経過措置を取った。

 保険料徴収開始時点で50歳を超えている人については、保険料を納めなくても70歳になれば支給される無拠出制の老齢福祉年金の制度を設けた。またすでに70歳を超えていた人にはただちに老齢福祉年金の支給を開始した。さらにその時点で20歳を超えていた障害者についても法施行日をもって「障害認定日」として障害福祉年金を支給する制度を設けた。

 しかし、82年からの外国人への制度適用と86年の国民年金法大改定に際しては、制度の谷間にあった外国人に対する救済策は講じられなかった。救済を求める同胞らの要求に対し、それを拒否する厚生省の理屈は要約すると次の2点だ。

 (1) 国民年金制度は社会保険方式が基本なので、82年まで保険料を払っていない在日外国人には年金を支給できない (2) 82年の国籍条項撤廃は制度の発足ではなく拡大。経過措置とは、制度発足時に行うもので制度の途中ではしないのが原則。

 しかし、そもそも国民年金は納付される保険料だけでなく、それに税金を加えたものを財源とする。国民年金制度は59年に「国民皆年金」のスローガンのもと、自営業者などそれまで公的年金制度に入れなかった人を対象に発足した。前述したようにその時、すでに障害者や老齢者であるなどまったく本人の責任によらずに保険料が払えず、年金受給の必要がある人には、経過措置を取って、税金で補償して救済する制度を盛り込んでいる。

 在日外国人が日本国民と同様に税金を納めていることや制度の精神から見ると、82年に外国人の無年金者が出ないように救済措置を取る方のが当然だったと言える。在日外国人は、82年まで国籍条項のために国民年金に加入できず、保険料を払いたくても払えなかったのだ。加入を拒否しておいて、加入していなかった(保険料を払っていなかった)から駄目というのはひどい理屈だ。

 また制度の途中で経過措置は取らないというが、実際には68年の小笠原返還と72年の沖縄返還の際、当該地域住民に対して、95年には中国残留帰国者に対して、それぞれ経過措置を取っている。外国人だけ救済しないというのは明らかな差別だ。

 さらに言えば、対象となる在日外国人のほとんどは在日同胞だ。そして国民年金制度における老齢福祉年金の受給対象から除外されている74歳以上の同胞は、過去の日本の植民地政策の犠牲者たちである。日本による強制労働などによって障害を負った人も多い。日本政府はこの点も考慮すべきであろう。

 在日同胞の若い世代や健常者が税金と自らの保険料を払いながら、年金を受給できない高齢の親や身内の障害者を扶養するという二重の負担を強いられていることも忘れてはならない。さらには、無年金の同胞障害者が無年金の高齢の親を扶養するケースさえあるのが現実だ。

 こうした状況に、暫定的な措置として独自の救済制度を取る自治体も増えている。しかし、その金額は一部を除いて年金の水準に及ぶものではなく、生活保護を受けている人は除外されるなどの制約もある。やはり抜本的な救済策、制度の見直しが求められよう。

 日本弁護士連合会(日弁連)は96年2月、厚生大臣に対して要望書を提出。国民年金の適用から除外されている在日同胞高齢者・障害者に年金が支給されるよう求め、国民年金法の改正を強く促した。日弁連は、無年金同胞を置き去りにしている現在の国民年金制度は、国際人権規約に違反し憲法にも抵触する恐れがあると強調している。

自治体独自の給付金

全体の4割近くが実施/政治の理不尽さ示す意味

 日本政府の差別的な対応に対して、多くの地方自治体では在日同胞の歴史と高齢者、障害者の現状を考慮し、政府が救済措置を取るまでの暫定的な措置として給付金制度を設けている(詳細別表)。

 総聯中央同胞生活局によると、障害者に対しては1973年の茨城・土浦市、高齢者に対しては78年の静岡・清水市が最初だった。在日同胞らの根強い要請活動などにより、こうした制度を設ける自治体は90年代に入って徐々に増え始め、97年に急増。今では無年金の在日外国人高齢者、障害者の両方もしくはいずれかに対する給付金支給制度を設けているのは1304自治体に上る(全体の39.5%)。

 こうした制度は、現在厳しい生活を強いられている在日同胞の無年金高齢者・障害者にとって、不十分とは言え、国が抜本的な制度改正を行うまでの暫定的な生活支援になっている。また国の差別的処遇が理不尽だということを自治体が示したものであるとも言えることからその意義は小さくない。

 しかし、東京23区をはじめ、未実施の自治体もかなりある。また実施されていても情報が行き届かないなど、十分に生かされていない側面もある。

 日本政府に対して年金差別解消を強く迫る一方で、地方自治体にはこうした独自の救済制度の実施および増額を求め、さらに実施されるようになった給付金支給などの情報を、組織とつながりのない同胞たちも含めていかに広く知らせて行くかが大切だ。

生活くるしい、みんな泣いている
高齢の母、障害を持つ妻も無年金/
聴覚障害者 金洙栄さん(48)

  京都市に住む金洙栄さん(48)は聴覚障害者だ。小さい頃、はしかの治療に使った薬のせいで耳が聞こえなくなった。

 国民年金の国籍条項が撤廃された時、金さんは30歳。そのニュースを知り、「当然自分ももらえると思って役所の窓口に行ったら、何の説明もなくただ駄目だと門前払いされた」という。後で色々と勉強し、それが在日同胞に対する不当な差別だということが分かった。その時、20歳未満だったらもらえたのだ。「なぜ年齢で区切るのか分からない」。

 親の代から受け継いだ、小さな織物工場を経営している。20年間、織物を織ってきたが、バブル崩壊以降、仕事は減っていった。生活のために機械を止めて土方のアルバイトもしたが、耳が聞こえないので危ないとすぐに解雇されたこともある。その際、「障害者は年金をもらっているだろう」と言われたという。

 80歳のオモニも、同胞で同じ聴覚障害者の妻も、年金を受給できない。小さいとは言え工場を持っているから、生活保護も受けられない。子供は3人。生活は本当に苦しい。

 「なぜ年金をもらえないのか。二重の差別に苦しむ同胞の障害者はみんな泣いている。また同胞社会でも高齢者が増えて、子供が減っている。みんな本当に大変だ。朝鮮人も日本人と同じように年金をもらえるべきだ。私たちは税金は同じように納めている」
 厚生省に何度も要請に行った。でも何も変わらなかった。覚悟を決めた金さんは3月、同じ思いを持つ京都の同胞障害者6人と共に、日本政府を相手に訴訟を起こした。

 「こんな状況を日本社会に知ってほしいし、日本政府に認めさせて変えさせたい」。手話で切々と訴える。

 

 無念金状態の外国人高齢者、障害者に対する地方自治体独自の給付制度

給付金額の多い自治体(すべて月額)

高齢者

3万円 中山町(鳥取県)
2万5千円 鳥取市、米子市、倉吉市、東伯町 (以下鳥取)
2万円 大津市など滋賀県下7市48町村、福井市など福井県下7市10町村、可児市(岐阜県)、東浦町(愛知県)、峰山町(京都府)、奈良市、大和郡山市、天理市、橿原市、生駒市、香芝市 (以上奈良県)、岩美町など鳥取県下10町村、大東町、津和野町、知夫村 (以上島根県)

障害者

5万6千円 箕面市、豊中市 (以上大阪府)
5万円

大津市、彦根市、長浜市、近江八幡市、八日市市、草津市、守山市者、蒲生町など滋賀県下7市12町

全国自治体の給付状況 

自治体の総数 

給付している自治体

高齢者 障害者 両方実施 いずれか実施
都道府県 47 6(13%) 7(15%) 6(13%) 7(15%)
671 267(40%) 226(34%) 221(33%) 272(41%)
東京23区 23 2(9%) 2(9%)
1990 377(19%) 349(18%) 347(17%) 379(19%)
568 38(7%) 32(6%) 32(6%) 38(7%)
3299 688(21%) 616(19%) 606(18%) 698(21%)

◇                    ◇

年金制度除外者に対する地方自治体の
独自給付金制度設置状況一覧表

 (1999年末現在)

北海道
東  北
関  東 中  部 近  畿 中  国
四  国
九  州

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