ひん発ハイテク犯罪
ハッカー暗躍、ウィルスまん延
情報化進展で脅威増大
日本の省庁ホームページ改ざんに米国のヤフー攻撃、そしてラブ・ウイルスと、インターネットと関連したハイテク犯罪が、このところやたらと目立つ。生活やビジネスにネットがますます浸透するなかで、こうした犯罪の脅威も身近に迫っている。実態の一端を見た。
犯罪ソフト「刃物並みの手軽さ」 ◆国家機関もピリピリ◆ 容疑者は15歳 都内でネット関連ビジネスを営むある男性は、起業を準備中のひと頃、夜も眠れぬ時期があった。自分とまったく同じアイデア、同じ市場を対象にした事業を準備中の企業があると、人づてに聞いたからだ。 「こちらは資金力も人手もなく、すきま市場をねらったアイデア勝負。競争相手の態勢や戦略が、気になってしょうがなかった」 結局、知人の助けを借りて相手の情報を集め、対抗する形で事業モデルを強化したのだが、そうする間にも自分のコンピュータに収まっているあるソフトが、頭をよぎることがあった。 「メール爆弾」――。特定の相手に数万通もの電子メールを送りつけ、システムをパンクさせる迷惑極まりないソフトで、ネット上で出回っている。 件の男性には、チャットで知り合った人物が勝手に提供してきたという。ソフトはすでに消去したそうだが、「競争相手にこれを使ってやろう、と本気で思ったことはありませんし、使う人も多くはないでしょう。しかし、台所の包丁ほどに、たやすく手が届くものになっているのも事実ですね」と話す。 こうした悪事は今や、少しばかり技術に通じていれば難しくはないのだ。 今年2月には、ヤフー、アマゾンといった米国の有力サイトが回線をパンクさせられる被害を受けた。複数のコンピュータを乗っとって攻撃に利用するという手口だったが、容疑者をつかまえて見れば、なんと15歳の少年だった。 一触即発 昨年、「チェルノブイリ」というウイルスの被害にあったある企業のシステム担当者は、「ワクチンソフトで駆逐しようとしたら、そちらも感染してしまった。ソフトが破壊、破損された影響は今も残る。復旧にともなう労力とストレスも軽くはない」と話す。 ウイルスは、コンピュータの専門家や愛好者が技術力を競う目的から作成しているとされる。言わば悪質ないたずらだが、今後は冷蔵庫やエアコンなどの家電までがネットに繋がって行くことから、被害の複雑化が心配されている。 第3者のコンピュータに侵入し、データを盗んだり改ざんする、ハッカーやクラッカーなどアウトローたちの動機も、多くは腕自慢であるらしい。しかし中には、企業に雇われて競合相手の入札情報などを盗むというプロ犯罪者もいる。 また、いたずらや腕自慢と言っても、シャレではすまされない場合が多い。 ジェイムズ・アダムズの「21世紀の戦争」は、ハッカーと国家の情報戦について詳しくレポートしている。それによると、1994年春、米空軍の情報システムを荒らしていた16歳のハッカーがある日、朝鮮半島の原子力研究所から盗んだファイルを米軍機関に転送。米軍は当初、そのファイルが南北いずれのものか判別出来なかったことから、「北に米軍の仕業と思われたら大変だ」と肝を冷やしたという(結局、ファイルは南のものだった)。 「銀行口座にメール、電話、あらゆる回線と電波に侵入する」「電話で『爆弾』『大統領』なんて口走ると、コンピュータに赤ランプが点る」。 ハリウッド映画「エネミー・オブ・アメリカ」で、ジーン・ハックマン演じる情報スペシャリストは、米安全保障局(NSA)の実態についてこう話す。 映画は、国民を常に監視下に置こうとするNSA高官の謀略を巡るサスペンスアクションで、秘密を握る主人公を、人工衛星や巨大コンピュータを駆使して追いかけ回すというもの。その技術力たるや驚くべきものだが、これらのほとんどは実在するという。その詳細については、アダムズの著書でも紹介されている。 また、悪役の高官は「今や小学生がインターネットで暗号を破り、核装置も製造できる。プライバシーの維持など、頭の中だけで十分」と自己正当化するが、こうした発想が台頭する余地は十分ある。なぜなら、米国を筆頭とする先進国はますます情報インフラへの依存を強めており、その分、ハイテク犯罪の脅威も増大するからだ。 日本や欧米の企業は、情報セキュリティのための次世代暗号システムを競って開発中だ。破るためには、千兆年かかる作業を1億回繰り返さねばならないという。しかし当り前だが、これとてキーを盗めば誰にも破れるのである。 ◇ ◇ こうして見ると、一般の人々や企業は、悪人と情報機関に包囲されているようで不安だが、かと言って今さら情報化を危険視して避けることもできない。やはり、いっそうの知識と情報力を身につけることで、対応するほかないのだろうか。 (金賢記者) |