春・夏・秋・冬

 ふらっと、古書店に行くのが楽しみだ。神田神保町、高田馬場、高円寺をはじめ、私が在住する埼玉県の各地の古本屋をぶらついては、希少な本に出会ったときの感動はひとしおである。とくに、路地裏の一角にぽつんと立っている古本屋の周りには、何代も続いた下町の香りと、様々なお店の人たちの堅実な仕事ぶりがある。バブル崩壊後、街の空気が日ごとにざらつき、人の心が荒れていくのとは別世界の風景であった

▼「金さんみたいに 堅い本 を探す人がめっきり減っているよ」。ある古本屋(西川口市)の店主に言われながらも、棚の下から上まで本をくまなく見、何10冊と積んである本を取り出すのである

▼大きな書店にズラリと並んだ本よりは、狭いスペースに埋もれ、ひっそりとつつましく並ぶ古典的な書物の方が親しみが持てる。なぜか。そこには、事物の本質が詰まっているからだ。親しくなった同上の店主から日本政治史学者の「丸山真男座談集(全9巻)」(岩波書店)を割安な値段で購入した。昨年に買ったものだが、読まずに眠ったまま家の棚に置いている。これからマイペースで読んでいくつもりだ

▼20代末の頃であったと思う。参加したある学習会で、在日の政治評論家・鄭敬模さんがこんなふうな言葉を述べた。「政治とか歴史の基礎的な事を知らずして叫ぶ統一というスローガンは、空虚なものでしかない」

▼目まぐるしく変転する朝鮮半島情勢。統一への希求は日増しに高まっている。朝鮮問題の基本は何であるかを見極めるために、これからも私の古本屋巡りは続く。  (哲)  

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