道開く、 自立とグローバル化


在日経済、どうアクセス

 「電力と地下資源、それから観光開発に投資できないか」

 朝鮮政府から招かれ、4月29日から8日間、平壌を訪れたMKタクシー(本社・京都)の青木定雄(兪奉植・72)オーナーは、政府要人からこんな要請を受けた。青木氏は1992年に、南の現代グループと共同で、白頭山と金剛山の観光開発構想を南北両政府に提案。その後の情勢悪化やバブル崩壊のため、構想は棚上げになっていたが、こうした経緯が今回の要請につながった。

 青木氏は、「歴史が動いているなかで役割をもらえたのは光栄」と話す。

 朝鮮政府は、経済再建のために資本の呼び込みに積極的だ。視線はもっぱら南に向いており、南の財界もそれを受けとめている。南北首脳の合意で、相思相愛は深まるだろう。

 ただ、この機運に在日同胞が乗れるかどうかについては、楽観ばかりもしていられない。

 ある商工人(41)は「在日の経済は、祖国の動きにアクセスする準備が出来ていない。このままでは置き去りになる」と、危機感を隠さない。

 彼自身は遊技業を営みながら、アボジが朝鮮に作った合弁会社の製品を、南の流通に乗せる計画を進めている。しかし、祖国の南北をまたにかけた在日ビジネスの例はまれと言える。

 思い当たる理由は2つ。在日にも分断の枠組みが持ち込まれ、ビジネスにも政治がらみのタブーができたこと。日本経済の中核に食い込めず、周辺的で隙間的な市場に立脚した在日経済に、政治の壁を超えるパワーが足りないことがある。

 青木氏は、「電力や資源開発などは手に余る」として、経団連などに訪朝団派遣を打診している。これとて、慣行を崩す「タクシー料金値下げ申請」など、業界の風雲児として鳴らした同氏の名声があってこそ、現実味を帯びる。自身のビジネスとしては、「北でのタクシー事業など、できることから」との考えだ。

 駒沢大学経済学部の鄭章淵教授は、「統一には莫大な資本が必要。国家の視線が力のある方に向くのは必然」と指摘。問題を次のように整理する。

 「統一の流れに居場所を求めようとするなら、在日は国家権力などに依拠するより、むしろ自立して力の培養に努めるしかない。また、民族にアクセスする経路は、世界を覆うグローバリゼーションの流れに乗ることで拓ける。逆説的だが、祖国に近付くには自立とグローバル化が必要だ」

 前出の商工人は、「こんな事態はずっと前から予想できたのに、準備がなされて来なかった。今は少しでも早くネットワークを作り直して、力を養っていくべきだ」と語気を強めた。 (金賢記者)

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