来年4月に子どもを朝鮮学校に編入、寄宿舎へ
栃木・西那須在住−金裕英、朴春陽さん夫婦
寂しい、でも同じ価値観
栃木県西那須在住の金裕英(32)、朴春陽(29)さん夫婦は来年4月から現在、日本学校に通わせている金潤哲(小学3年)、由奈(同2年)ちゃん兄弟を、福島朝鮮初中級学校(郡山市)に編入させることにした。遠距離通学、寄宿舎生活などに二の足を踏んで近隣の日本学校に送ったものの、「健やかに、そして何よりも朝鮮人として堂々と育ってほしい」という切なる思いには勝てなかった。 春陽さんと、裕英さんは6月下旬、編入時期の打ち合わせに金さん宅を訪れた福島朝鮮初中級学校の金政洙校長を前に、互いの意思を確かめ合うように何度もこういうやり取りをした。 金さん夫婦は、子どもたちをいずれは朝鮮学校に編入させようと思っていたが、遠距離通学への心配もあり、かといって寄宿舎に入れる決心も付かず悶々としていた。 夫婦が住む西那須からは、同県の栃木朝鮮初中級学校まで車で2時間もかかる。子どもに遠距離通学をさせるには、あまりにも負担が大きい。そこで、寄宿舎生活を体験した母親の出身校でもある福島初中の寄宿舎に入れることも考えた。だが、神奈川県の川崎初中級、神奈川朝高出身の金さんには寄宿舎生活の経験がなく、ためらいがあった。 「最初は、寂しいと思う。子どもも私たちも。でも、親と同じ価値観を持って、朝鮮人として育ってほしいという気持ちの方が強くなった」(金さん)。 父母たちの大きな声援と、初めての代表としての責任感で、多少気持ちがうわずっていたのか、潤哲くんは監督の「後ろへ回れ」、の声が聞こえず前進してしまった。 その途端、上級生が「あいつ『金』だから日本語分からないんじゃないのか」と、皆の前でからかうように言った。 朴さんはその場で、その上級生を呼び付け、ほかの父母たちが見ている前でしかった。人前でしかったことなどが後にPTAで議論になったが、上級生の発言がそもそも問題だったということで結局、校長が金さん夫婦に謝罪してきた。 「あんなことがあっても、本名で通わせたことを1つも悔やんでいない」 この頃、金さん夫婦は潤哲くんに朝鮮人としての「変化」が起き始めていることに気付いた。栃木の朝鮮学校で、第2、4土曜日に開かれる土曜児童教室に通いながら、言葉や歴史を習っている内に、子どもの中で民族心が芽生え始めていたのだった。 金さん夫婦は、「朝鮮学校へ行く?」と潤哲くんに尋ねてみた。2つ返事だった。 潤哲くんは、「僕、朝鮮学校に行くんだよ」と、クラスの皆の前で堂々と宣言した。 福島県内の公立小中学校に対する年間、生徒1人当たりの税金の支出は、それぞれ82万9000円、87万円となっている。ところが朝鮮学校への税金支出は、日本学校の33分の1にも満たない2万5000円だ。 そればかりか、市町村からの保護者、遠距離通学、スクールバス購入補助などからも完全に除外されている。 こうした制度的差別が、在日同胞の父母たちに、教育を選ぶ選択の余地を閉ざしているともいえる。 「これから1番下の子も含めて、3人も朝鮮学校へ通わせると家計の負担は大きい。正直言って、このまま日本学校でもいいかな、そう思ったこともあった。でも、お金に代えられない」(金さん) 朴さんも「これからはオモニ会で、助成の問題などを訴えていきたい。やっと慣れて来たのになぜ今さら、なんて言う人もいる。でも違う。少し無理をしても、朝鮮人としての情緒を育てたい」と語る。 6月13日、金さん夫婦は南北首脳会談のニュースが流れるテレビに釘付けとなった。 「どうしてなのか、目頭が潤んだ。日本のマスコミの影響からか、ウリナラに対して嫌悪感を持ったこともあった。でもとにかくあの日、朝鮮人でよかったと思った。これからは子どもたちと、こういうことも語り合いたい」 金さんはその日、朴さんとともに朝鮮学校で得たものが将来、必ず子どもたちのためになるという思いを確信したという。 (金美嶺記者) |