ソクタム―ことわざ辞典

「歩く雀を見ればその年の科挙に合格する」


 「歩く雀を見ればその年の科挙に合格する」

 珍しくまれなことに出会うと、よい運命に巡り合うという意味だ。



 湖南(全羅道)の人、李某は博学豊かな人物であったが、幾度か科挙に失敗して悩んでいた。それで考えた末、有名な占師を訪ねて判断を乞うことにした。

 占師は彼にこう言った。「あなたの計画の前には、ただ、死と合格があるのみです。上京の途中、白服の娘にあったならば、必ずその娘を妻になさい。そうすれば、死はまぬがれ、科挙にもきっと合格するでしょう」。

 李某は占師の言葉を信じ、ふるさとをあとにして上京の途についた。行くこと数日にしてある川辺にいたると、緑したたる柳の下に1人の白服の美女がたたずんでいた。彼が近寄ると、その美女は恥ずかしそうに駆け出して、大きな門構えの家に入っていった。彼はすぐその後ろを追って門内に入り、自分は科挙を受けに上京するものだが、旅費も足りなくなり困っているから、一夜の宿をぜひ貸してほしいと懇願した。

 すると、その家のあるじの白髪の老人が出てきて、彼の境遇に同情して快く迎えいれて、ご馳走を出して大いに歓待してくれた。

 その夜、読書をしていた白服の美女は、見知らぬ闖(ちん)入者に驚き逃げ出そうとした。すると、李某は美女の袖にすがりついて、至誠をこめた口調で、生来志している科挙合格の執念と占師の予言を述べた。「わたしは死を覚悟してこの家に入った。私を助けると思って、占師の予言のごとく私の妻になってください。将来必ず幸せにします。そうすれば、私は今度の科挙試験にきっと合格するでしょう。生と死、それはただ、あなたの一言にかかっています」。

 赤面した美女はしばらくして、「人の生死は天命です。みすみすあなたの一命を奪うことは、どうして私にできましょう。昨夜の夢にあなたが科挙に合格されたことを見たのも、神の知らせ、2人の縁でございます」と、言うのであった。李某はこの言葉を聞いて、まさに天にも昇る心地であった。

 はたせるかな! 科挙の結果は占師のいったとおり、合格であった。帰路の途中、李某は再びその家を訪れ、初めて親に先の夜のことを話して許しを乞うた。

 こうして李某は妻と共に故郷に帰り、幸せな家庭を築いたとという。

 【注】テグァ(大科) 科挙で文科の本試験に合格することを言う。

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