連携強め共同研究を
学術交流国際シンポジウム「コリアの自然史は今」
古来、朝鮮半島と日本列島は地続きで、自然史的・地理史的にもひとつの地域だった。そのため海を隔てた今でも、両地域の野生動物には共通種が数多く存在する。 しかし、これまで両地域の研究者が情報を共有することは、各国間の交流に関する「障壁」もあり、困難な状況にあった。 だが、一昨年の北南朝鮮の首脳会談以降、両地域の政治情勢が好転し、W杯共催などの交流が進むなかで、今回のシンポジウムが実現した。 朝大で人工繁殖成功 第1部「野生生物の現状」では、鳥類、ユリ科植物、カワウソ、洞窟動物に関する計6編の論文が発表された。 なかでも注目を集めたのは「クロツラヘラサギの人工繁殖に関して」と題して発表した朝鮮大学校の韓昌道さん。今年5月に東京都多摩動物公園に続いて世界で2番目にクロツラヘラサギの人工繁殖に成功したという(別項)。 韓国野生動物研究の韓盛緕≠ヘ、「南朝鮮のカワウソの生息実態」と題し発表し、カワウソは1900年代初頭、南朝鮮全域に群をなして分布していたが、今は減少の一途をたどっていると報告した。その原因について、朝鮮戦争後の経済開発と環境汚染による生息地の破壊にあると述べながら、カワウソの分布状況を調査することにより、その地域の環境汚染と自然保護の実態がわかると指摘した。 進化研究地の鬱陵島 第2部の「自然史研究への取り組み」では、南朝鮮の昆虫の多様性、鬱陵島での植物進化、スズバチを中心とする南朝鮮産ハチ類の現状、南朝鮮における国立自然博物館設立にかんする問題など、計5編の論文が発表された。 東北亞植物研究所の玄鎭午所員は「植物進化の研究対象地としての鬱陵島の価値」と題し発表。 鬱陵島は、約250万年前に最初の火山噴火があってから180万年前に現形をとどめた島で、世界でも数少ない大洋島(1度も陸地とつながったことのない島)のひとつであると報告。そのため、他島に比べて植物進化が完成されておらず、植物進化の初期段階が研究できると指摘した。 鬱陵島には現在、約500〜700種の管束植物が分布しているが、その起源を分析すると、シワブキなどの南方系植物およびハクサンシャクナゲなどの北方系植物の南北両系統の植物が属するのが特徴だと語った。 朝鮮北部に残るトラ 第3部は「野生生物保全への取り組み」。絶滅危惧種の保護や自然環境の保全に関する6編が発表された。 日本野鳥の会の遠藤公男名誉会員は、「朝鮮半島の虎の滅亡についての考察」で、日帝植民地時代、合計約17年間にトラ97頭、ヒョウ624頭を捕獲したという当時の朝鮮総督府の資料があるが、それら大型哺乳類が絶滅の危機にあるのは、当時の日本軍による乱獲が原因ではないかと発言した。
そしてトラは現在、朝鮮半島北部の白頭山地域にしか生息していないだろうとし、その可能性を探るためにも朝鮮との共同研究が不可欠だと語った。 ほかにも、樋口広芳日本鳥類学会会長は「鳥の渡りと朝鮮半島の非武装地帯」と題し、日本と朝鮮半島を往来する渡り鳥について言及した。 人工衛星を使った航路追跡の結果、東アジアのツル類は、中継点として朝鮮半島の非武装地帯を多く利用していると指摘。朝鮮戦争後、この地域が人間の手の及ばない自然界の楽園になっているのが理由だと述べ、同地域を共同で保護する必要性を訴えた。 また、朝鮮大学校教育学部の鄭鐘烈学部長は、その非武装地帯に集まる渡り鳥の一種であるクロツラヘラサギの保護活動について発言。 保護のための国際プロジェクト発足の経緯や生息数、生息地、繁殖、越冬、人工繁殖技術などの研究成果を述べながら、幅広い保護活動を行うためにも、政府および行政レベルでの支援獲得運動と報道・教育機関も交えた保護活動を活発に行っていこうと呼びかけた。(韓昌健記者) |